こうもりのおはなし

 昔々、あるところに大きな森がありました。
 その森ではたくさんの動物や鳥たちが一緒になって、とても仲良く暮らしていました。

 しかしある日のこと、狐と鶴が些細なことでケンカを始めてしまいました。
 最初、それは単なる小さないざこざでした。
 ですがその波紋は段々と大きくなっていき、ついには動物対鳥の争いにまで発展してしまったのです。

 森の中で巻き起こる全面戦争は、一進一退を繰り返し続け、何日も、何ヶ月も、何年も続いていきました。

 みんな、この戦いは無駄だということに気付いています。
 意味のないものだということに気付いています。

 ですが、彼らには後戻りをする勇気がなかなか出てこず、またそれぞれの大将が負けず嫌いだったこともあって、お互いに仲直りすることをなかなか切り出せなかったのでした。

 その中で、双方を和解させようと立ち上がったものがいました。

 それは、こうもりです。

 容姿がよくなかったこうもりは、他の動物や鳥たちからちょっと嫌われていました。
 それでも、こうもりはみんなのことが大好きでした。動物と鳥たちが仲良く一緒に過ごしているのを静かに見下ろすのがとても大好きでした。
 それゆえ、みんなには早く仲直りをして欲しいと強く願っていたのです。

 ある日、戦況が動物たちに有利になりました。
 こうもりは動物の大将のところまで飛んでいき、必死に訴えます。
 「ねぇ、争いはもうやめようよ。仲直りしようよ」
 しかし、勝利が目の前にあるというのにいまさらやめられるか、と願いは聞き届けられませんでした。
 結局鳥たちは何とか体勢を立て直し、戦況はまた睨み合いへと戻ってしまいます。

 そしてまたある日。今度は鳥たちがいっせいに動物たちを攻め始め、勝利まで後一歩というところまできました。
 こうもりは、今度は鳥の大将のところまで飛んでいきました。
 「もういいでしょ? 前みたいに仲良く暮らそうよ」
 しかし、ここでもこうもりの願いは聞き届けられることはありませんでした。
 そして動物たちは何とか持ちこたえ、戦況は結局振り出しに戻ります。

 こうもりは、早くいつもの平穏な日々に戻りたくて、何回も何回も何回も、繰り返し訴えました。
 「こんないがみ合いに何の意味があるの? 普通の暮らしが一番の幸せなんだよ?」
 「仲間を傷つけることに意味はあるの? 傷ついてまで何をしたいの?」
 「何で……何でみんな仲良くしてくれないんだよ!」
 何回も、
 何回も、
 何回も……。


 そしてある日、動物と鳥たちの間で、ある噂が囁かれるようになりました。

 『こうもりは、動物が有利になると動物側に、鳥たちが有利になると鳥側につく卑怯な奴だ』と。

 この噂は瞬く間に広がっていき、ついには動物と鳥たちはそろってこうもりを非難するようになりました。

 『卑怯者。こうもりの卑怯者』

 こうもりはどこへ行っても動物と鳥たちに追い立てられてしまい、ついには森を追い出されてしまいました。
 大好きだった仲間たちの非難の声を背にして、こうもりは独りで飛んでいったのです。

 でも、こうもりは寂しくなんてありませんでした。

 なぜかって?

 だって、動物と鳥たちが一丸となって自分を非難したのですから。

 自分が悪役になることで、みんながまた力をあわせたのですから。

 自分が森を出ることで戦争が終わったのですから……。


 それからというもの、こうもりは夜に飛び回るようになりました。彼らが仲良く眠っているのを、夜中にこっそり見るために。

 昔々の昔話でした。